M  Y  S  T  E  R  Y    L  E  A  G  U  E


誰もが読みたかったこの場面!
我が国の誇る二大名探偵が
商都大阪の殺人事件を舞台に推理合戦!

芦辺 拓

『明智小五郎対金田一耕助 名探偵博覧会U』

四六判上製本
290頁
1890
円(税込)

昭和十二年、商都大阪――。
とある薬問屋の跡目をめぐる争いの中、
招かれていた金田一耕助の目前で起こる殺人事件。
ところが不可解なことに、 殺人者も死体も現場から瞬く間に消え失せたという。
金田一は事件の捜査に乗り出し、事件は終幕を迎えたに見えた。
一方、これを新聞記事で知った明智小五郎はある行動を開始した――。
探偵小説の名手がおくる、パスティーシュ・ミステリの白眉。
ほかに珠玉の六編を収録。


本文から少しだけ


「やあ、君!」
 ふいに背後から肩をたたかれ、快活に呼びかけられて、先刻の若い社員ははじかれたように振り返った。構内の売店でちょっとした買い物をすませ、大阪駅の改札を出た直後のことだった。
「やや、これは明智先生!」
 青年は半ば唖然となりながら、言った。この名探偵が、何かとびきりの魔術でも披露したかのような驚きっぷりだった。
「ハハハ、驚きましたか。あのまま帰京するつもりが、急に心境の変化をきたしましてね。ちょうどよかった。というのも、ちょっと調べたいことができて――」
 明智小五郎は例によってのにこやかな笑顔で、書類挟みを相手に差し向けた。そこには、ついさっき彼の興味を引き、終着駅までの切符を無駄にさせた記事が開かれていた。
青年はなおもどぎまぎしながら、
「はあ、これは確か道修町で起きた一件ですね。さぁて、そう言われましても、私も新聞記者ではなし、とっさにはくわしいことは……あ、そうだ。その事件だったら、こっちにも続報が出ていましたよ」
 ふいに何か思い出したようすで、ポケットに突っ込んでいた最新版らしい新聞を「ほら、こですよ」と差し出した。彼の指がさした先には、このような記事が写真入りで掲載されていた。

  「事件の解決近し」金田一探偵の談

 問題の蛟龍堂事件につき鴇屋本家より依頼を受けて上阪せる東京の私立探偵金田一耕助氏は、本紙記者の質問に対し次の如く答へた 「今度の事件の最も難解な点は、犯人が僕を含めた目撃者の眼前で兇行をなしながら、その後何らの証拠を残さず消息を絶つた点ですが、これは探偵小説などによくある一見難解ながら視点を少しずらせば存外サラリと解ける種類の謎だらうと確信致します、真相及び犯人の名前ですか、エヽそれについては概ね見当が付て居ります……」

 明智は、なぜか微苦笑まじりにその談話に目を通していたが、やがて顔を上げると、
「なるほど、なかなか語りますね。だいたいのところはわかりました。それと……お願いついでに、もう一つ頼まれてほしいことがあるのですが」
「はい、何でしょう」
「今から言うとおりに、電報を打っていただけませんか」
 あわててメモと鉛筆を取り出した彼に、明智はおもむろに口を開いた。
「あて先は東京市麻布区竜土町、明智文代殿。文面は――『帰京少シ遅レル 小林君ノ迎ヘ要ラヌ 再度ノ連絡ヲ待テ』。じゃ、どうかよろしく!」