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《あかずの扉》シリーズ外伝!
双子姉妹の「殺人」と「無実」の証明
後動の「遺志」を継いだ今寺の
たどり着いた結論とは……

霧舎巧
『名探偵はどこにいる』

四六判上製本
290頁
1680円(税込)

「わたしたちがやろうとしているのは……殺人なのよ」
双子の姉妹はある決意とともに
終ノ島へと向かう。
そして島で死体となって発見されたのは、
彼女たちの通う高校の教師だった。
さらに二人は、
それをネタに脅迫を受け……。
後動の「遺志」を継いだ今寺に課せられたのは、
「双子の殺人の無実≠証明すること」
『名探偵はもういない』に続く
《あかずの扉》研究会シリーズ外伝!


本文から少しだけ


 
  同じ顔が二つ向かい合っていた。
「もう一度、冷静に考えて……」
 一つの顔が言った。
「何度も考えたわ。結局、やるしかないのよ」
 もう一つの顔が答えた。
「でも……」
「大丈夫、ばれることはないわ」
「ばれるとか、ばれないの問題じゃないでしょう」
 少女は自分と同じ顔を持ち、同じセーラー服を着ている相手の肩を揺すった。
「あたしたちがしようとしていることは、いままでのこととは違うのよ」
 気を張っていたもう一方の少女の目にも逡巡の色が浮かんだ。
「テストを入れ替わって受けたり、ボーイフレンドを騙してデートするのとはわけが違うんだから」
「…………」
「あたしたちがやろうとしているのは……」
 少女は次の言葉を発することが出来なかった。その言葉の意味を考えると、声が喉のところで止まってしまった。
「計画は万全よ。いまならお父様にばれることもないし……学校のみんなにも」
「だから、ばれなければいいっていうものじゃないでしょう。良心の問題よ」
「それもわかってる」
「わかってないわ。だって、あたしたちがやろうとしているのは……」
「あたしよ! あたしたち、じゃないわ」
「…………」
「あたし一人がやるの。あたし一人だけでやるの……」
 その一言で反対意見に回っていた少女は口を閉ざした。これまで、何をするにも一緒だった双子の姉妹──生まれてから、まだ十数年しか経っていないが、その間、二人は何をするにも一緒だった。
 競争意識と依頼心の狭間で揺れ動いた時期もあったが、いまでは互いに認め合い、尊重し合っている。相手の考えていること、望んでいることが手に取るようにわかるのだ。
 だから今回、彼女に訪れた窮地を思い、さらにその窮地に対して、彼女自身が自分だけで《そのこと》を決行すると宣言するに及んで、少女は何も言えなくなってしまったのだ。
 それは、いつでも困ったことがあったら協力を要請してきた彼女が、今回は自分を必要としないと言ったからではない。そんな決断の裏側で、助けてくれと必死に自分の力を求めている声が聞こえてしまったからだ。
「わかった。もう反対しない……」
 少女は言った。
「じゃあ、計画通り、明日は二人で美容院に行くわよ」
「ええ、そのあとお揃いの洋服を買って……」
「同じ靴を買って……」
「同じ旅行カバンを用意する」
 息が合ってしまえば、あとの段取りは下手な犯罪のプロ集団より、理解が早かった。
「一つ心配なんだけど……」
「なに?」
「彼は大丈夫なの? 行き先を誰かに漏らすとか……」
「それは大丈夫だと思うけど。当日、現地でそのことを確認してから、実行に移ればいいわ」
「だめだったら、計画は延期ね」
「仕方ないわ。時間がないけど……まあ、その時は、三人で終ノ島旅行でも楽しみましょう」
「二人だけのほうがいいね」
 姉妹は笑い合った。
「あ、それから、日記は今日中に燃やしてしまいましょう」
「あと、手紙とかメモとか、あいつとのつながりがわかるようなものもね」
 どちらからともなく手を差し伸べ、二人は握手をかわした。
「くどいようだけど……」
 片方が口をひらく。
「もう、良心がどうだとか言わないわ。でも、あたしたちがこれからやることが何なのか、それだけは肝に銘じておいてよ」
「ええ」
「あたしたちがやろうとしているのは……」
 さきほどは言えなかった言葉が、今度はすらりと口をついて出てきた。
「……殺人なのよ」