M  Y  S  T  E  R  Y    L  E  A  G  U  E



集団自殺事件をめぐる「真相」と「犯人」
読者の間隙を突く
折原マジックの真骨頂!

折原 一
『グッドバイ 叔父殺人事件

四六判上製本
340頁
1995円(税込)

ぼくの叔父が集団自殺をした。
締め切ったワゴン車で練炭を使ったのだという。
ところが叔母は「自殺に見せかけて誰かが殺したんだ」といってきかない。
こうしてぼくは叔母に命じられ叔父の死の「真相」を探ることになったのだ。
ぼくは遺族として他の自殺者の家族と会ううち、
この集団自殺を以前から追いかけていたジャーナリストがいたことを知り、
そして、ぼくはなにものかに監視されていることに気づいた。
やはりたんなる「集団自殺」ではなかったのか?
ぼくは狙われているのか?


本文から少しだけ


  3

 窓の内側に水滴がびっしり付着していた。
 外は真っ暗闇だった。夜か。
 トイレでも行こうか。そう思って、起き上がろうとした時、体が動かないことに気づいた。自分の気持ちとは裏腹に体はびくともしない。コンクリートで固められたかのように、体は麻痺していた。
 コンクリート詰めにされた?
 頭も硬直して動かない。首がまわらない。眼球だけがかろうじて動くだけだ。狭い視野の中、自分が車の中にいることを知った。
 どうして、ここにいるのだろう。
 記憶が曖昧だ。記憶の中枢もやられているにちがいない。
 車の中に他にも人のいる気配がした。自分のいるのは、助手席と思われる。体が左に傾いているので、視野に入るのは、左の窓とフロントガラスの左半分ほどだ。隣に人が座っているのがわかるが、それが男なのか女なのか判然としない。
 背後にもやはり人の気配がする。しかも複数だ。車はかなり大きい。ワゴン車というやつだな。
 眼球を再び左の窓に向ける。後部のドアの隙間にガムテープが貼ってある。
 ガムテープ? なぜ、ドアにガムテープを貼りつけるのだろう。不自然だ。密室殺人じゃないんだから。
 密室殺人? 思考がすぐに脱線する。
 愛読する推理小説には、密室殺人を扱っているものがけっこうある。例えば、内側からテープで目張りをした部屋で人が殺されているとする。そばにはもう一人が倒れていて、犯人はその人物と思われてしまう。なぜなら、もし犯人が別に存在するとした場合、目張りをされた部屋を出入りすることは不可能だからだ。窓やドアは内側から施錠され、壁や天井にも抜け穴はない。
 私が犯人?
 左手を使って何とか後部ドアのテープを剥がせないものか。そうしないと、自分が犯人にされてしまう。でも、何もやっていない。人殺しなんかしていない。これは、一体どういうことなんだろう。
 ここから脱出しなくてはならない。そうしないと、とんでもない苦境に追いこまれる。理由はわからないが、のっぴきならない状況にあることはわかっていた。動けないが、生きている。生きているのに、動けない。八方塞がりとはこのことだ。
 ドアの把手に手をかけて、外へ脱出したい。そばのドアにはテープが貼り付けていないので、手さえ把手に達すれば……。
 脳の中枢から左手へ指令を送る。
「手を伸ばせ、手を伸ばせ。把手をつかむんだ」と。
 意識を左の人差し指に集中させた。車のどこかから忍びこむ空気を吸って、かろうじて意識を失わずにいる。気の遠くなるほど長い時間を使って、何とか手が伸びた。
 小刻みに震える指先が把手に達した。だが、指に力が入らない。焦燥感だけがつのっていく。このまま、死んでしまうのか。
 車の中で全員死亡。
 その時、思い出した。車の中で集団自殺をやろうとしていたのだと。自分はそのうちの一人。犯人ではないのだ。いや、違う。自分は……。
 どこかで犬が鳴いているような気がした。幻聴かもしれないが、犬の声が意識を覚醒させ、束の間、指先に力を与える。だが、指先は麻痺したままだった。
  その時、突然、車のドアが開き、その勢いで外へ転がり落ちた。
 新鮮な空気の中へ。



 許せない。あいつだけは許せない。
 その人物は、闇の中で歯噛みしていた。
 絶対に殺してやる。絶対に。これは復讐なのだ。不当な仕打ちに対する正当な復讐なのだ。わからないように殺してやる。見つからないように。
 その自信はある。
  …………