M  Y  S  T  E  R  Y    L  E  A  G  U  E


浦川氏のめぐる、
極北でも究極でもない
限界本格推理

斎藤 肇

『たったひとつの 浦川氏の事件簿

四六判上製本
340頁
1890円(税込)


岸岡という小さな町で殺人事件が起こった。
町中がその話題で持ちきりとなってい たさなか、浦川はある少年にこう問いかけた。
「君さ、人を殺しただろ?」
浦川は少年が記したネット掲示板のある書き込みをみてそう感じたのだという。
はたして少年はある人物をそそのかして殺人計画をたてていたのだが……。
「たったひとつの事件」から浦川氏のめぐる8つの限界推理=B
読者へ「たったひとつの」注意事項 ――順番に読み進めていただくことをおすすめします。 つまり、
たったひとつの事件、恥ずかしい事件、はじめての事件、壁の中の事件、
どうでもよい事件、閉ざされた夜の事件、すれ違う世界の事件、浦川氏のための事件といったふうに。
とにかく多 くは語れないへそまがり本格ミステリー。


本文から少しだけ


 小学校の頃からの同級生に蓮井陽ってやつがいる。
 ぼくの他にはまだ誰も知らないはずだが、こいつが人を殺している。一昨日の晩のことだ。
 この小さな町は今、その事件のことで大騒ぎ、ってことになっている。少なくともテレビで見る限りは、この町の住民はみんな、その事件以外についてはなにも考えていないように見える。
 ぼくの目には、べつに、三日前と変わったようには見えない。つまり、この町はずっと、事件のことばかり考えていたんだろう。それが起こる前からずっと。
 町に転がったひとつの他殺死体は、たぶんその答えみたいなものだ。
「降るかな」
 と、その人は言った。天気は良かった。雲はいくつかあるけれど、ほとんど青い空だった。
「降らないでしょう」
 ぼくらは、ベンチに腰掛けていた。
 浦川と名乗るこの男が、例の事件のことでこの町にやって来たのは確実であるように思えた。しかし、どう見ても刑事のたぐいには見えなかった。けれど、だからといってぼくのところに来る理由が分からない。
 一緒に食事しようと誘っておきながら、こんなベンチにコンビニ弁当を持ち込んで食べようとする、どこか間抜けな表情を見せる大人。古くなった人間。
「いや、降るよ。きっとね」
 いったい、なにを考えているのだろう。なにか考えているだろうってことは確実なのに分からない。
「それなら、早く帰らないと。傘なんて持って来てないですから」
「ああ、私も傘はないなあ」
「じゃ、そういうことで」
 ぼくは立ち上がろうとした。
「あ、あ、そういういけずはやめてよ。ごめんごめん、急いで本題に入るからさ」
 止まる。
「なんの用でしたっけ?」
「ほら、さっきも言っただろ。Pうぇいぶ≠ウんが、インターネットの掲示板に残したメッセージのこと」
「なんか書きましたっけ?」
「たいへんなことを書いてたと思うなあ」
 なかなか本題に入ろうとしない。どっちがいけずだよ。
「なにも書いてません。たぶん、同じハンドルの別人でしょう」
「ええ? ほんとに?」
 なぜか、ぼくはこの男のことが気になって仕方がない。
「たぶん……」