M  Y  S  T  E  R  Y    L  E  A  G  U  E


芦辺拓、二階堂黎人両氏強力推薦!
墜死体はなぜ折り重なっていたのか。
俊英渾身の力作!

小森健太朗

『魔夢十夜(まむじゅうや)

四六判上製本
450頁
1890
円(税込)

ルームメイトから頼みを受けた丹崎恵が自殺したルームメイトの友人の足跡を調べるうち、
学内にカルトめいた集団があり、自殺した女性がそれに関わっていたらしいことを知る。
それが引き金であったかのように事件は始まる。
学校近くのホテルで生徒が変死体で発見され、
さらにふたりの女子生徒が何者かに突き落とされたのだ。
しかも死体は二重に折り重なっていた。
いったい学院ではなにが起こっているのか。
俊英が真正面から挑む渾身長編!


本文から少しだけ


プロローグ

 後から振り返って、なんと日常から隔絶した狂乱の十一日間だったのだろうと思う。渦中にいる間は無我夢中だったが、平穏な日常が戻ってきた今になって振り返ってあらためてそう思う。その間に恵の親しかった人が何人も残忍な仕方で殺された。恵自身が、犯人ではないかと疑われる苦しい立場に追いやられた。そして何よりショックだったのは、すべてを仕組んだ真犯人が、恵の近くにいた人物だったことだ。かくも短期間にあまりにも多くのことが起こりすぎ、しかもこれまで生きてきた世界を根底から覆すような衝撃的事態がつづけざまに起こったために、恵の心は一種の麻痺状態に陥っていた。こんなに恐ろしいことが起きているのに、充分にそれを感じたり驚いたりすることができなくなる状態――それがその渦中にいたときの恵の精神状態だった。
 この一連の出来事は否応なくそれまでの慣れ親しんだ世界から恵を鉤爪で引き剥がすように、別の荒々しい現実へと彼女を追い立てた。まだ羽毛も充分に生え揃っていないのに、無理やり安穏たる巣を追い出された雛鳥のようなものだ。そのことがはたして若い恵の成長につながるものであったか――それは今でもよくわからない。ただ一つ言えるのは、この体験を経た後では、元の安穏な日常世界にはもう戻りたくても戻れないことだ。否応なく世界は風貌を変えてしまった。深く心に傷を負った恵もまた、同じままではいられない。
 いま思えば、真相は最初から首尾一貫して明白だったことにも気づかされる。知性と推理を働かせば、恵にも事件の真相は容易に洞察することが可能だったはずだ。それはほとんどあからさまといってもいい仕方で、恵の眼前に示されていた。ただ、恵にとっては、それが親しく、近すぎる存在だったので、見えていながら見えないものになっていた。恵が見聞きしたことを知らせるだけで、鋭敏な推理力を働かせられる人には真相は瞭然たるものになるに違いない。
 そしてその事件が始まったのは、女子生徒の一人が死んだ三月十五日かもしれないし、もっと早くからだったのかもしれない。恵にとっては初めて寮に行った四月七日が起点となるだろう。そのときに事件をめぐる諸事態は、知らずに恵に影を投げかけていた。ゆっくりと、網を張るように、その事件は、恵に触手をのばしていた。やがてがんじがらめに、いくらもがいても動くことができなくなるまでからめとられるまでに――。
 だからこそ、恵はこの一連の事件のことを自分で書き残さなければならないと思う。一人の少女が体験した、言いようのない苦汁と辛酸を伴う、狂乱の十一日間ともいうべきあの春の事件を――。誰よりも深く事件に係わり、巻き込まれた者として――。