M  Y  S  T  E  R  Y    L  E  A  G  U  E


遺稿に刻印された「真相」は、
いかにして闇に葬られるのか?


奇才が放つ、企みに満ちた青春ミステリー!

倉阪鬼一郎

『留美のために』

四六判上製本
290頁
1890
円(税込)

学内のミステリーサークル「アルゴークラブ」は、
赤田留美、羽根木透という二人の死者を出して、その活動に幕を下ろす。
その最後の会合は、羽根木の遺稿「紅玉の祈り」の朗読会となった。
羽根木の赤田への思いが描かれているようなのだが、
しかし、じつはそこに二人の死にまつわる「重要な真実」が記されているのだという。
メンバーは遺稿を読みながら、やがてある「それ」に気づくのだが……。


本文から少しだけ


 わたしはバッグから大きな茶封筒を取り出した。

 紅玉の祈り 羽根木透の遺稿

 黒のサインペンでそう記してある。
「それ、ひょとして手書き?」
 目ざとく見つけた須賀川がたずねた。
「いや、パソコン。ごく普通のインクジェット紙に印刷してあった」
「なんだ、それじゃ値打ちは出ないね」
 須賀川はビールを飲み干し、薄い口ひげに指をやった。
 頭にはちらほらと白いものが交じりはじめている。ラフな恰好でも学生より助教授といった雰囲気で、キャンパスを歩いていると礼をされたりするらしい。
「たとえ手書きでも値打ちなんてないよ。名もない素人が書いた小説なんだから」
 澤野が横合いから口を挟む。
「いや、わからないよ。曲がりなりにもこれから活字になるんだから、夭折の天才作家の遺稿ということで値がつくかもしれない」
 古本屋回りを趣味にしている須賀川は、半ば期待をこめてそう答えた。
「『紅玉の祈り』って、やっぱり赤田さんがモデルなんでしょうか」
 あまり事情を知らないらしいかおりが誰にともなく訊いた。
「タイトルからしてそうだけど」
 有紀が少し小ばかにしたような口調で言った。
 赤田留美は七月生まれで、イヤリングや指輪など、必ずどこかに誕生石のルビー(紅玉)をあしらった装飾品をつけていた。
「ま、そのあたりは聞いてのお楽しみということで」
 わたしはそう答えておいた。
 料理はさみだれ式に運ばれてきた。夫婦が切り盛りしていて使用人がいないため、一度に注文すると時間がかかる。それでも滞りなく皿が揃い、いささか覇気はないが夕食の時間となった。
 酒がしだいに行き渡るにつれて、それなりに話題が出はじめた。円蔵の周りでは名前の話になった。姓か名かはっきりしない珍名だが、本人の弁によると、郷里では意外にありふれた名前だという話だった。
「その点、留美ちゃんは、あれね」
 有紀が妙な省略形を用いた。
「赤田は遊行寺よりずっとポピュラーでしょう」
 円蔵が言う。
「それはどうだっていいから」
 有紀がそう答えたのをしおに、苗字と名前の組み合わせの禁忌は何かという話題で場はひとしきり盛り上がった。
 苗字が「だ」で終わる場合、「まり」や「るみ」という名前はつけないほうがいい。

 千田まり
 小田まり
 中田るみ

 そんな例がいろいろ挙がった。
「そういえば、赤田さんのご両親ってどんな方なんでしょうか」
 一段落したところで、かおりが須賀川にたずねた。